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神戸地方裁判所 平成9年(わ)518号 判決

本店の所在地

兵庫県洲本市物部三丁目二番七九号

法人の名称

淡路真珠製核株式会社

(右代表者代表取締役 畑田惠)

本籍

兵庫県洲本市物部一丁目一四三番地の七

住居

同市物部三丁目二番七九号

職業

会社役員 畑田惠

昭和三年七月二六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官杉浦三智夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人淡路真珠製核株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人畑田惠を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人畑田惠に対し、この裁判が確定した日から三年間その執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人淡路真珠製核株式会社(以下、被告人会社という)は、兵庫県洲本市物部三丁目二番七九号に本店を置き、真珠核の製造及び売買業等を営む法人であり、被告人畑田惠は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人畑田惠は、被告人会社の業務に関し、不正の手段により法人税を免れようと企て

第一  平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度における所得金額が九八〇三万五二七五円で、これに対する法人税額が三五七九万六〇〇円であるにもかかわらず、架空の仕入れを計上する等の不正の行為により、所得金額のうち五四六二万三二五円を秘匿した上、平成六年三月三一日、兵庫県洲本市山手一丁目一番一五号所在の所轄洲本税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三四一万四九五〇円で、これに対する法人税額が一五三〇万七七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額三五七九万六〇〇円との差額二〇四八万二九〇〇円を免れ

第二  平成六年二月一日から平成七年一月三一日までの事業年度における所得金額が一億六三三八万四五九六円で、これに対する法人税額が六〇三四万一一〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により、所得金額のうち一億三九七六万九二五円を秘匿した上、平成七年四月二八日(災害による申告期限の延長)、前記洲本税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三六二万三六七一円で、これに対する法人税額が七九三万八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額六〇三四万一一〇〇円との差額五二四一万三〇〇円を免れ

第三  平成七年二月一日から平成八年一月三一日までの事業年度における所得金額が二億七五九〇万六一四〇円で、これに対する法人税額が一億二五五万二〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により、所得金額のうち二億六一九万一九八六円を秘匿した上、平成八年四月一日、前記洲本税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六九七一万四一五四円で、これに対する法人税額が二五二二万八二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度における正規の法人税額一億二五五万二〇〇円との差額七七三二万二〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の漢数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人畑田惠の当公判廷における供述

一  被告人畑田惠の検察官に対する供述調書(六一ないし六四)

一  被告人畑田惠の大蔵事務官に対する質問てん末書(三四ないし四一、四三、四四、四六ないし五一及び五三ないし六〇)

一  前田るり子の大蔵事務官に対する質問てん末書(二六ないし二八)

一  畑田みつ子の大蔵事務官に対する質問てん末書(二九)

一  斉藤昇の大蔵事務官に対する質問てん末書(三〇)

一  山本政夫の大蔵事務官に対する質問てん末書(三一)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(一三ないし一七、一九ないし二二及び二五)

一  登記官作成の商業登記簿謄本(二)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(二四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(三)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(四)

判示第三の事実について

一  被告人畑田惠の大蔵事務官に対する質問てん末書(四二、四五及び五二)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(一八、二三)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(五)

(法令の適用)

被告人畑田惠の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人畑田惠を懲役一年六月に処し、また、被告人畑田惠の判示各所為は被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対しては、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が処せられるべきところ、いずれも情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により右各罪の罰金の合算額の範囲内で被告人会社を罰金三〇〇〇万円に処し、被告人畑田惠については、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役として業務全般を統括していた被告人畑田が自ら指示指揮して、架空仕入れの計上及び期末材料棚卸高を除外する等の不正の行為により、三年間に合計一億五〇〇〇余万円の法人税をほ脱した法人税法違反の事案である。

ほ脱額が多額であるばかりか、ほ脱率も平均約七三パーセントと高率であること、犯行態様は被告人畑田自らあるいは事情を知らない妻や従業員を利用して当該期の売り上げ予想に基づいて架空仕入れを計上させたり、期末棚卸高を除外して内容虚偽の過少申告を行ったもので、計画的で巧妙な犯行であることなどに照らすと、その犯情は軽いとはいえない。本件犯行が被告人会社の不況時に備えた会社経営資金の確保の目的に出たもので、被告人畑田あるいは親族の蓄財等の私利私欲に出たものではないとしても、脱税事犯が国民の租税負担の公平を害する重大犯罪であることからすれば、被告人の行為は強く非難されるべきである。

しかしながら、被告人畑田は、税務調査の当初には査察官の取調べに対して犯行の一部を隠そうとするかのような言動が見られたが、指摘されるとすぐに事実を素直に認め、今後は決して脱税をしないと誓っていること、修正申告を済ませて正規の税額、重加算税、延滞税等の国税及び地方税を完納していること、前科前歴がないこと、これまで精神病患者や母子寮に居住する者を従業員として受け入れるなど社会的にも有用な働きをしてきたと認められること、洲本市や財団法人法律扶助協会に対して贖罪寄付を行っており、真摯に反省しているとみられること、被告人会社の企業活動継続にとって被告人畑田の存在が必要不可欠であること、被告人畑田の健康状態など酌むべき事情も認められるので、被告人両名に対し主文のとおり刑を量定した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・被告人会社につき罰金五〇〇〇万円、被告人畑田につき懲役一年六月)

(裁判官 吉田昭)

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